【資金管理】住宅ローンは繰り上げ返済すべきか?

節約術
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少し古いですが、ZUU onlineに以下のような記事がありました。

なかなか踏み込んだタイトルですが、内容的にはよくある「住宅ローンはなるべく繰り上げ返済しましょう、100万円繰り上げ返済することで、将来の総返済額が79万円減る」という内容でした。
これで「100万円で79万円儲かる」いうのはちょっとタイトル盛りすぎですよね・・

まぁ、ほとんどの方は元利均等返済を選択していると思います。
その場合、仮入れ直後の返済額に占める利息の割合が高いので、この記事の言い分もわからなくはないですが、複数の投資商品の比較によく用いられるIRR指標(Internal Rate of Return/内部収益率)の考え方なども完全に無視していますね・・

私は、特に今の住宅ローン事情を考えると、無理して繰り上げ返済するより、その分を長期のインデックス投資に回した方がよいと考えています。

住宅ローンは繰り上げ返済すべきでない3つの理由

では、その理由についてお話していきます。

借り入れ10年間は住宅ローン減税制度が使える

住宅ローン減税制度は、自分が住む家を住宅ローンを借りて購入した場合に、「年末の住宅ローン残高」もしくは「住宅の取得対価」のうち、少ない方の額の1%が、10年間所得税の額から直接控除(所得税から控除しきれないと住民税から一部減額)されるという制度です。

最大で400万円(特定の住宅では500万円)が戻ってくる制度ですので、借り入れから10年間は、まずは、この減税制度のメリットを最大限利用した方がいいでしょう。

住宅ローンは超低金利

では、10年たったら繰り上げ返済すべきでしょうか?

2021年5月現在、住宅ローンの最低金利(変動)は、住信SBIネット銀行auじぶん銀行で0.41%、auじぶん銀行は「au金利優遇割」といっては、「auモバイル」「じぶんでんき」をセットで申し込むと、さらに0.1%の金利優遇が受けられて、0.31%で借りることができます。

もちろん、0.4%でも、35年ローンだと総利息はそれなりの金額にはなりますが、これほどの低金利で、まとまった資金を調達できる方法は他にはありません。

では、10年たった時点で、まとまったお金が手元にあることを仮定して、繰り上げ返済をする場合と投資で運用する場合を比較してみます。

繰り上げ返済と投資での運用との比較

繰り上げ返済の場合

仮に借入金が3000万円、利率が0.4%の変動金利、返済期間を35年とすると、総返済額は32,153,940円です。

10年後に、500万円を繰り上げ返済した場合を考えます。利息の減少額が大きい「月々の返済額はそのままで、返済期間を短縮する」方を選択すると、返済期間は5年11か月短縮されて29年1か月になり、総返済額は31,694,531円となり、減少する利息額は 459,409円と、繰り上げ返済によって減少できた利息額は約46万円になります。

投資で運用する場合

一方、この500万円を、投資で運用した場合はどうなるでしょうか?

例えば、NISA等を活用せず、20%を税金で引かれた場合でも、米国株式インデックスの「S&P500」の平均利回りは約3.2%、全世界株式インデックス「MSCI ACWI Index」の平均利回りは3.1%程度は期待できます。

ただ、リスクもありますので、利率1.0%、2.0%、3.0%のそれぞれの場合で、10年、20年、30年運用すると運用額がどうなるか計算してみました。結果は下記のようになります。

10年20年30年
利率1.0%
(下段は運用益)
5,525,625円6,106,506円6,748,451円
525,625円1,106,506円1,748,451円
利率2.0%
(下段は運用益)
6,105,998円7,456,641円9,106,045円
1,105,998円2,456,641円4,106,045円
利率3.0%
(下段は運用益)
6,746,768円9,103,775円12,284,212円
1,746,768円4,103,775円7,284,212円

返済分を投資にまわすと利率1.0%で運用しても、10年後には約53万円の運用益が得られることになります。

では逆に、先ほどの残り25年間の住宅ローンの繰り上げ返済によって減少できた利息額(約46万円)分の運用益を25年で得るためには、どの程度の利率になるのかを計算すると、利率0.352%に相当することになります。

銀行の定期預金よりはいいですが、比較的安全な外国債券でも長い目で見ると1.0%程度の運用益を出すのは難しくない話です。

せっかく低金利でお金を借りられる今の時代、繰り上げ返済に回すお金があるのなら、もっと高利回りの運用で増やした方がよいです。

以上は、金利が安い最近の変動金利での話でしたが、2010年以前に住宅ローンを借りた人は、当時金利は1.5~2.0%くらいありましたし、今でも35年固定の「フラット35」の金利は1.2~1.3%程度なので、その場合は、同様の計算をしてみて、どちらがメリットが出るのかを比較してみることが重要です。

それ以前に、もしまだ高い金利のまま借りている方がいれば、そもそも住宅ローンの借り換えから考えるべきでしょう。

万が一の際は返済不要

地価の高い都市部で自宅を購入した人は35年でローンを組んでいる方も多いかと思います。
借り入れたときの年齢によっては、最終的に返済が終わる年齢が70歳を超えている方も多いのではないでしょうか。

よくある考え方としては、「年収が上がってくれば、繰り上げ返済もできるだろうから、繰り上げ返済で返済年数を減らせば60歳~65歳くらいには完済できるんじゃないかな」といったところでしょう。

ただ人間は誰もが、いつかは必ず亡くなります。
住宅ローンの借り入れの際には、借り入れした金融機関が受取人の団体信用生命保険に加入していますので、もしもの場合には、住宅ローンの残債は、遺族が支払う必要はありません。

厚生労働省の簡易生命表から見る、年齢別の生存率

2021年5月時点で手に入る厚生労働省の最新のデータ「令和元年簡易生命表の概況」サイトにある「令和元年簡易生命表」よると、生存者数の割合は下記のように計算できます。

年齢男性女性
65歳約89.6%約94.5%
70歳約84.1%約92.1%
75歳約75.9%約88.2%
80歳約64.2%約81.8%

男性の場合、65歳時点で10人に一人、70歳で6人に1人、75歳では4人に1人が亡くなっている計算になります。結構な割合だと思いませんか?
ですので、借り入れ年齢が高い人ほど、団体信用生命保険のお世話になる可能性も高まることになります。

万が一の場合、いくら返済不要になるのか

先にも説明した通り、借入金が3000万円、利率が0.4%の変動金利、返済期間を35年とすると、総返済額は32,153,940円でした。35歳の時に上記のローンを組んだとすると、65歳で亡くなった場合は、残債として約900万円70歳で亡くなった場合は、その時点の残債約455万円が返済不要になります。

35年ローンの完済年齢は80歳未満とされている方が多いので、40歳くらいでローンを組んでいる方の場合、さらに高額の残債が返済不要になります。

同様に、10年目で繰り上げ返済をした場合を考えます。
35歳で借入金が3000万円、利率が0.4%の変動金利、返済期間35年のローンを組んで、10年後の45歳で500万円を繰り上げ返済すると完済年齢は64歳11か月になりますので、65歳、70歳に亡くなってしまったとしても、お得にはなりません。

残念ながら、自分自身がそのメリットを受けることはできませんが、残された家族がいる方は考えておいた方がよいポイント化と思います。

まとめ

以上、住宅ローンは繰り上げ返済すべきかということに関して、住宅ローン減税、繰り上げ返済と投資運用とのコストメリット比較、団体信用生命保険の利用という3つの観点でメリットとなりうる考え方について説明しました。

繰り上げ返済して早く完済することは、老後の借金がなくなり身軽になれるという、大きな安心感が得られることも事実です。ですので、コスト的に見合わなくても繰り上げ返済をメリットと感じる方もいると思います。

人によって、考え方や感じ方は異なりますので、繰り上げ返済をしないという選択肢もあるということも分かったうえで、手元にあるお金を「繰り上げ返済」と「資産運用」のどちらに回すのか、ポートフォリオをうまく考えつつ、資産形成していきましょう。

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